いつもご覧くださりありがとうございます。溝口将太です。
このご時世にも関わらず、友人がタクシードライバー(法人タクシー)として乗務中、酔客による嘔吐事案が発生してしまいました。
子どもが車内で嘔吐してしまうなら情状酌量の余地はあっても、泥酔状態で人様に迷惑をかけるなどあってはならないことです。
幸いにも友人は乗客から運賃と自発的なお詫びを頂戴することにより不幸中の幸いで済みました。
今回は『乗客がタクシー車内を汚してしまうとどうなるのか』をお伝えします。
乗務員と乗客の間に発生する「旅客運送契約」
私も含めてみなさんがタクシーを利用する時は乗務員さんに目的地を告げ、場合によってはルートを指定して乗務員さんから了解を得ることになると思います。
メーターを入れてスタートするわけですが、法的な話をすると、この瞬間に乗務員と乗客の間に「旅客運送契約」が成立します。
そして旅客運送契約が成立すると乗務員・乗客それぞれに義務が生じます。
少し見てみましょう。
乗務員に発生する義務
先ずは乗務員から見てみましょう。
乗務員には乗客を安全かつ合理的に目的地へと運送する義務が発生します。
具体的には無事故・無違反を前提とした安全運転です。
もっと言うと揺すられない・酔わせない安定した運転、道路状況に応じた最善のルート運行などです。
未だに「タクシードライバーの運転は荒くて怖い」という特に女性からの声が目立っていますが、その時点で安全に運送する義務の債務不履行と言えるのです。
乗客に発生する義務
意外と知られていないかもしれませんが、乗客にも義務が生じます。
何度か私のブログ内でも出ている言葉ですが、それが善管注意義務です。
タクシーの利用で定義される善管注意義務とは、「善良なる管理者としての注意義務に基づいて、車両・座席に乗車するとともに、降車時に既定の運賃・料金を支払う義務」を指します。
この善管注意義務には車両を破損・汚してはならないことも含まれています。
善管注意義務自体は他の業種でも使われる言葉・法律ですね。
つまり、タクシーの車内で嘔吐してしまう行為は善管注意義務違反であり法律違反ということになるわけです。
法律違反なので仮に裁判にまで発展すれば乗客は100%負けます。
タクシー各社の公の見解は…?
コロナ禍を経て飲み会なども賑わいを取り戻していますが、通常は特に年末になると質問サイトなどに「タクシーで嘔吐したらクリーニング代などを請求されるのでしょうか?」といった投稿が目立つようになります。
請求されるケースもあればされないケースもある…というのが私からの返答です。
そこから見てみましょう。
法人タクシーの見解
法人タクシーの見解としては多くのタクシー会社で運賃・料金(高速料金など)以上を請求しないとしている会社が多いです。
表向きとしてはタクシーのイメージアップやお客様第一主義みたいな理由が挙げられるのですが、本当の理由は違います。
本当の理由、それは裁判等の手間をかけたとしても会社としては大した金にならないからです。
大した金にならないといっても乗客個人にっては大きな金額(まともにやり合うと20万前後の負担の可能性大)になるはずですが、請求額全額が会社に入るわけでもなく弁護士費用の負担も生じるので、ハッキリ言って面倒くさいというのが実情です。
ネット上で乗務員の泣き寝入りの可能性が高いという解説もあると思いますが、その真なる理由がコレです。
請求額というのは乗務員への営業補償・車両の清掃費用・法人としての損害賠償・裁判費用などが充当します。さらに乗客本人の弁護士費用が発生するものなら総額は20万円では済まない可能性もあるわけです。
個人タクシーの見解
乗客のことを想ってお伝えしますが、絶対に車内嘔吐をしてはいけない相手です。
個人タクシーは個人事業主なので、車内嘔吐で汚された時点で数日間稼働できなくなる可能性が高まります。また、求められる営業補償も法人のそれを上回ることがほとんどです。
法人タクシーよりも稼働できなくなる要因の一つとして使用車両の違いが挙げられます。
今でこそ東京都心を中心に走行しているJPNタクシー。このクルマはある程度は清掃が行いやすい構造になっています。狙っているのかたまたまなのかはわかりませんが…。
さらに法人タクシーという特性上、部品の供給も比較的容易で万一破損・故障をしていても再稼働までにそれほど時間を要しません。
個タクは違います。一般でも使われている乗用車をタクシー仕様にしているのでむしろコストが上がっており、例えば吐しゃ物で自動ドアや窓を壊してしまうものなら本当に大変なことになります。
そして法人とは違い、個人タクシーは業者に清掃を依頼することも珍しくありません。現在はコロナ禍なのでリスクも考慮すれば費用が増大している可能性すらあります。
それら全てを嘔吐した乗客に対し法的に請求できるので、請求額は正直想像できません。
乗客のベストと思われる対応
それでは乗客のベストな対応は?
車内嘔吐をしないように自分自身をしっかり管理する
これが一番ですが、それができないから車内嘔吐が発生するわけですね(笑)
…スッキリさせてからタクシーを利用しましょう!本当にこれが全てです。
もし乗車中に気分が悪くなったら遠慮せずに乗務員に伝えることです。それが一番ありがたくお互い平和に旅客運送契約を全うできるのです。
それでもやってしまったら…
確かに乗務員からの金銭の要求は恐喝に当たる可能性が非常に高いです。
それを恐れて特に法人タクシーでは請求しないとしている側面もあるのでしょう。
今回のブログで一番お伝えしたいことをオフレコで書きます。
素直に謝ってタクシー料金を支払い、別途3~5万円を現金で渡してください。
余程のことがない限りこれで許してくれます。後から法律を根拠に色々請求されるよりはいいでしょう。
また、法人タクシーが原則請求しないといっても、あなたの降車後に乗務員さんは帰庫してあなたの汚物を片付けることを思えば…私が言えるのはここまでです。
できれば現金で支払ってください。
カード支払いになると後の処理が面倒になる可能性があります。
乗務員の対応について
乗務員の対応も記載します。利用されるみなさんも参考にご覧ください。
金銭の直接要求は恐喝になる可能性が高い
車庫で清掃をしている同僚を数多く見てきた私からしたら疑問に感じるところもありますが、「これでは仕事にならないから迷惑料を支払え」というのは恐喝に当たる可能性があります。
そう言いたくなるのもわかるのですが、この時点では「迷惑料」という文言・内容に法的根拠が全くないからです。
早とちりしてしまうと失敗するいい例でもあります。
では「法的根拠」とはどういうものなのでしょうか。
営業補償・休業補償・清掃費用など
これらを法的根拠をもって乗客に請求することは可能です。
営業補償
営業補償は営収補償とも言い換えることもできますが、簡単に言えば「嘔吐されたことによりこの先仕事ができなくなったからその分を補填してね」ということです。
これは嘔吐した時間帯や乗務員によって請求される金額が異なります。
数字の求め方は、「該当乗務員個人の過去3か月間の営収の平均で割り出した数字」が適用されます。
こちらの数字が法的根拠として機能します。交通事故関連でも適用されていますね。
個人タクシーの営収補償が大きくなる傾向にある理由がこちらです。
では仮に、『たまたまその日の営収が平均をずば抜けていい状態で嘔吐され、まだ稼働時間も十分残されていた場合』はどうなるのか…私も直接見たことはありませんが、なんらかの根拠に基づいて算出されると思います。
しかし大した金額にはならないでしょう。
休業補償
休業補償は法人タクシーではほぼ発生しないと考えていいと思います。
発生するケースとして…翌日になっても汚れ・臭い等が解決されず、翌日の担当乗務員が他の車両が稼働満車のために乗務できなった場合に発生するものです。
休車台数に悩まされる法人タクシーではあまりないと言えるでしょう。
逆に個タクは1台しかないのでほぼ100%発生します。
清掃費用
清掃業者に清掃を依頼した場合に発生する費用です。
その費用は数万単位です。
最近はコロナのリスクや物価高の影響もありより高くなっていると聞きます。
請求書に記載された請求額を法的根拠として乗客に請求することができます。
その他 器物損壊が発生した場合など
その他として仮に部品・備品などを破損させればそれ相応の請求は発生します。
現場での対応 不幸中の幸いで終わらせるために
ちょっとウラ話のような内容になりますが…。
乗客に嘔吐された場合、まずは警察を呼ぶことをお勧めします。
それは自身の正当性を自信をもって主張すること、もし訴えることになるのなら乗客の名前・住所・電話番号等を控えることになるからです。
実は「警察を呼ぶ」という手段から乗客に対するプレッシャーになっています。
乗客も警察を呼ばれること自体に後ろ向きになるのは当然ですからね。
ある程度話せるようになれば「乗車前の状態に戻してください」と伝えます。
つまり乗客は自分の嘔吐物を自分で処理しろと言われるわけです。
無理ですけどねww
この後に実情を伝えます。もう仕事にならないこと、清掃業者に依頼すれば多大な費用が発生する事、裁判になれば100%乗客が負けること…などです。
今では感染症のリスクを挙げてもいいでしょう。
そして「じゃあどうしますか?」と乗客に選択肢を委ねるのです。
ここまで話せばよほど鈍くない限り察します。
つまり乗客に請求するのではなく、「これで許してください」と提案させるわけですね。
まとめ
ちょっと嫌な話になってしまいました。
基本的に人様の物を壊したり汚したりしてはいけないわけです。当たり前ですよね。
鉄道では基本的には責任を課さないようですが、本来それは普通のことではないはずです。
「飲んだら乗るな」とは言いません。乗るからには自身をしっかりコントール・管理する姿勢が大事だということです。
ちなみに友人の一件は、警察だけでなく急性アルコール中毒の可能性もあったので救急車も呼ばれちゃったそうです。