いつもご覧くださりありがとうございます。溝口将太です。
東京では街中を走るタクシーの多くが「JPNタクシー」ではあるのですが、実はタクシー仕様に改造した「シエンタ」、さらには「カムリ」までも増えつつあるようです。
初期投資の面で注目を集めるシエンタタクシー。次は事故が発生した際の修理コスト、数十万キロ走った時の耐久コストなどが比較できればより明確な答えが出てくるでしょう。https://t.co/IMkuv1fcuQ
— 溝口将太 (@mizoimp) October 16, 2020
以前にJPNタクシーとシエンタについてはこのブログ内でお伝えしたことがありますが、その内容は『(シエンタは)JPNタクシーを導入するよりも安くなる』『ユニバーサルデザインに対応していないので車いす関連のトラブルの心配がない』というものでした。
今回は前回の続編というような形でもう一歩踏み込み、メディア等でも気づかないであろう現場目線でまとめてみたいと思います。
実際のコストを可能な限り比較
シエンタやカムリを導入したとして、LPガスも併用できる『バイフューエル仕様』や『タクシー仕様』に改造する費用は私でもわかりませんでした。
しかし参考までに車両価格の比較はしてみたいと思います。比較対象はすべてハイブリッド車です。
車両価格
車種 | グレード | 価格 | WLTCモード燃費 |
JPNタクシー | 匠 | 3,564,000円 | 16.8km/L |
シエンタ | FUNBASE G | 2,423,000円 | 22.8km/L |
カムリ | X(エントリーモデル) | 3,485,000円 | 27.1km/L |
今回は「カムリ」も比較対象に入れてみました。
「カムリのエントリーモデルは348.5万円です。つまりJPNタクシーの上級モデルより価格が安いのです。LPガスも使えるバイフューエル仕様に改造しているケースは少ないようですので、あとは自動ドアを装着するだけなので、『セダン型でJPNタクシーより見栄えはいいし割安感が高い』ということになっているようです」
引用:WEB CARTOP
最近、カムリは個人タクシーでも多く見かけます。確かにハイブリッドだと燃費はとてもいいですね。クラウンよりもシャープでスポーティなイメージです。
そういえばGT-Rの開発で知られる水野和敏さんがこのカムリを走行性能・後席の居住性や乗り降りのしやすさ等を絶賛していた記憶があります。
確かに車両価格だけで見るとJPNタクシーは割高とすら言えるかもしれません。
東京都では補助金の対象になるJPNタクシー
しかし東京に限った話になるのですが、現時点でも東京のタクシー事業者がJPNタクシーを購入すると、東京都から補助金が支給されるはずです。その額は80万円程度と聞いています。
東京でJPNタクシーを利用する際、リアドアにステッカーが貼られていることにお気づきでしょうか?
このステッカーを貼付することが補助金対象の条件となっています。
燃費効率をレギュラーガソリンとして換算
車種 | WLTCモード燃費 |
JPNタクシー | 16.8km/L (レギュラーガソリン代換算で実質33.6km/Lとほぼ同コスト) |
シエンタ | 22.8km/L |
カムリ | 27.1km/L |
燃費はJPNタクシーが圧倒的に劣っていますが、これはガソリンではなくLPガスだからです。
LPガスの料金は事業者との契約スタンドにより若干の誤差はあると思いますが、レギュラーガソリンの約半額だそうです。
ですので、レギュラーガソリン仕様のシエンタやカムリと同じ土俵で比較した際は実質2倍に換算しました。ここでカタログ燃費上ではJPNタクシーが最も燃料コストに優れることがわかります。
しかし私の走り方の問題かもしれませんが、JPNタクシーは300キロほど走ると燃料残量を示すメモリが2メモリ以下になり、16.8km/Lを実感できたことはありませんでした(燃費計では11.0km/L前後)。
シエンタやカムリの方がトルクも馬力も余裕があるので、実燃費の差は縮まると思います。
また、タンク容量(容量52L)も実際の7~8割程度しか入らないので1度の後続距離自体は大したことないのです。
ハイブリッドシステムはさすがのトヨタ。車内のモニター表示上は走行距離の30~40%程度はモーター駆動をしてくれますが、これはタクシーならではの走り方から得られる結果です。
総じて事業者から見れば燃料コストは確かに抑えられますが、現場目線で見ると航続距離、給油のタイミング・回数はあまり変わらない(現実的には給油回数自体はJPNタクシーがむしろ多くなる)という結果になっています。
足回りの耐久性
燃料系以外で一般車両とタクシー車両との一番の違いは足回りです(ボディも相当コストを抑えていますが…)。
専門的な解説は長くなるので今回は省略しますが、フロントは比較対象全車、独立懸架のマクファーソンストラット式が採用されています。
一方で大きく異なるのがリアの足回り形式です。
カムリ = ダブルウィッシュボーン式 = 独立懸架
シエンタ = トーションビーム式 =(一応)独立懸架
JPNタクシー = トレーリングリンク車軸式コイルスプリング(3リンク)= 車軸懸架
となっています。性能はカムリ > シエンタ >> JPNタクシーです(>はイメージ)。
ところが耐久性はJPNタクシーが群を抜いて高いです。シンプルで高耐久が車軸懸架の特徴なのですが、これがタクシーの足回りにはもってこいで、メンテナンスやパーツ交換は発生しますが数十万キロ走れる足回りの根本的な理由です。
その代わり、車軸懸架というのは左右のサスストロークが連動していて、片方が伸びると片方が縮むという仕組みになっています。
不快な揺れが発生しやすいということですね。
カムリはもちろんシエンタもそれ相応の走行性能・快適性を実現できているとは思いますが、さすがに数十万キロ走ることを前提には作られていません。
JPNタクシーと同距離を走ろうとすると、メンテナンスやパーツ交換費用・回数は増しているでしょう。
ここが私がTwitterで述べた「数十万キロ走った時の耐久コスト」の部分です。
JPNタクシーはリアシートがかなり優秀です。あのクルマはシートで乗り心地を作っています。もっと言ってしまえば車軸懸架のネガな部分をシートで補っていますね。
JPNタクシーのボディ剛性自体も決して高くないです。ペラペラなんですね(笑)
シンプルな足回りにペラペラなボディ、非力なエンジン(ハイブリッドによる直線加速とフロントヘビー化はなかなかのプラス)ということで皮肉にもある意味バランスは保てているということになります。
まとめ
東京のタクシーでは本気で稼いでいるドライバーは1日300キロ以上は間違いなく走っています。
距離だけでみるとJPNタクシーがおそらく最もコストには優れると思いますが、仮に該当ドライバーがシエンタやカムリに乗り換えるともっと稼いでくる可能性もあります。
それはクルマの性能がよければドライバーの疲労もより軽減されるからです。事故や違反も減ればコスト削減にもつながります。
個人タクシーにセダンタイプが多いのも走行性能もですが、「選ばれるセダン」を使用しているのも事実です。付け待ちが多いのも無駄な燃料消費を抑えるという理由もあります(ほかにもありますが…)。
結局のところ、地域や勤務実態、仕事のスタイルによるところが大きく、どの車種が一番コストに優れるかは甲乙つけがたいと言えるでしょう。