タクシーにおける超長距離運送の対応を考える

2021年1月25日

いつもご覧くださりありがとうございます。溝口将太です。

先日、Twitterに以下のようなツイートをしました。

金額がタクシー運賃としてはあまりに大きいなものであること、年齢が18歳の少女であることなどインパクトが大きい報道でした。

細かいルートまではわかりませんが、いずれにしろ乗車距離は400㎞を超えています。

山形県居住(自称)の少女が東京駅から滋賀県の草津まで移動をしたのかはわかりませんが、そもそもタクシードライバーが機転を利かせれば防げた事件ではないかと思いました。

以下にタクシー側からの事情を合わせて考察していきたいと思います。



そもそも乗車拒否ができるのか

正当な乗車拒否として成立する?

この少女が東京駅から滋賀県草津駅まで乗車した…つまり東京駅での乗車時に「滋賀県の草津駅までお願いします」と依頼した可能性が高い(途中で行き先変更が生じた可能性はある)ので東京駅で依頼を引き受けたと仮定します。

そのような場合、タクシー乗務員は乗車拒否をすることができるのでしょうか。結論からお伝えしますと正当な理由としての乗車拒否が成立します。

あまり知られていないのですが、正当な乗車拒否が成立する条件の一つに『目的地が営業区域の境界線から概ね50㎞以上遠方の場合は乗車拒否が成立する(※)』というものがあります。

実は昔タクシーセンターに質問をしたことがあるのですが、その際は「お客様にご納得いただけるようお伝えしてください」と言われたのを思い出しました。これにはいろいろな理由があるのですが、労働環境、運行の安全面が主な理由だと捉えていただければと思います。

営業区域への戻りの高速代をお客様に請求できる条件でもあります。

『概ね』とありますが、これはまさかメジャーなどで距離を測るわけにもいかず、ルートによっては微妙に距離が異なるので『概ね』としていると推測できますが、余程のことがない限りは乗車拒否はされません。喜んで乗せてくれます(笑)


余程とは言えない一例

例えば、東京駅から「小田原へお願いします」と依頼されたとしましょう。小田原方面へ高速で向かう場合、首都高速から東名高速経由の小田原厚木道路というルートが第一候補として挙げられます。

このルートの場合、東京駅から見て小田原方面との営業区域境界線はもちろん東京都世田谷区と神奈川県川崎市との境界線(現実的には多摩川沿い)です。

大雑把ですが東名高速・東京ICから小田原厚木道路・小田原東ICまで約60㎞。正当な乗車拒否が成り立つと言えます。しかしこれを断る乗務員はほぼいないでしょう。

では今回の件(東京駅~滋賀県草津駅)は…そうです。余程のことと言えるのです。

なお、途中で行き先変更が生じて結果的に超長距離運送依頼になる場合ももちろん断ることは可能ですが、その際は乗客の安全などを考慮した上で降車させる必要があります。


超長距離の乗車依頼を断る理由

タクシードライバーの間では長距離のことを『ロング』と言うのですが、メーター運賃が1万円を超えると『ロング』と言われます。

『超長距離』というのはここで私が勝手に表現している言葉ですが、業界では『お化け』というあまりよろしくない表現も使われています。

今回は営業区域境界線から50㎞超えの依頼を『超長距離』とさせていただきます。

乗車距離が100㎞程度ならその場で喜んで引き受けてもらえると思いますが、長距離になるほどリスクも大きくなっていきます。その発生するリスクを以下に簡単にまとめておきます。

燃料の問題

超長距離依頼を引き受ける場合はほとんどが高速道路を利用して走行すると考えられますが、個人タクシーはともかく法人タクシーのほとんどがLPガスを燃料としています。

そこらのスタンドで給油を行うことができないのです。私が知っている限りでも高速道路では『東名高速・足柄SA』でLPガスの給油ができる程度です。

それを思えば「名古屋」程度なら行けなくもないのですが、ともかく給油を行うためには一度高速を降りてLPガスを給油してくれるスタンドを探す必要性が生じます。

さらに地方のスタンドでは深夜帯の営業が行われていないのがほとんどです。あまりにもリスクが高いのです。

ちなみに、トヨタのジャパンタクシーで高速道路における実燃費は約15㎞/L、燃料タンク容量は52Lとされています。

引用元:トヨタ自動車

従来のクラウンに比べ燃費は格段によくなりましたが、実際には燃料タンク52Lという印象ほどは走りません。

安全性の問題

余程の超長距離の乗車依頼が発生した場合、法人タクシーのドライバーは運行管理者の指示を仰ぐよう教育されています。

これは労働基準法などが関わってくるのですが、タクシードライバーは1日の労働時間・走行距離が決められています。

走行距離に関しては高速道路は適用外なのですが、運転して走行することには違いありません。運行管理者の判断で運送の引き受けを断るよう指示されることもあります。

金銭の問題

これが一番大きなリスクです。超長距離の走行は場合によっては10万円を超えてくることもあります。

今回の件も運賃・高速代合わせて約16万円だそうですが、深夜割増時間帯に東京から大阪まで乗車しようものならその料金は20万円前後と言われています。

果たしてそれだけの金額を支払ってもらうことができるのか…乗り逃げのリスクも考えないといけないのです。

なお、クレジットカード決済は7万円前後までしかシステム上決済できないとされています。まぁ手動取引として複数回に分けて決済を行えば実質的に可能だとは思いますが…。

では、今回の件でタクシードライバーはどのような対応を行えばよかったのでしょうか。



超長距離依頼の対応を考える

犯罪を未然に防ぐ

勝手な予想ですが、今回の運送を引き受けたのは個人タクシーではないかと推測しています。理由は上記の金銭の問題以外のほとんどが解消できるからです。

さらにコロナ禍で営業収入も下がっている中で超長距離と言われれば欲も出てきます。気持ちはわからなくはありません。

しかし相手は18歳の少女。今は見た目で年齢はわからないのかもしれませんが、それ相応の対応は必要だったのではないでしょうか。

以下にタクシードライバーと乗客双方のために防止策をまとめておきます。

支払い能力の有無を確認

まずこれです。失礼だという意見もあるかもしれませんが、私ならまず支払う意思があるかどうかを確認します。料金の相場がわからない可能性もあるので、少なくとも15万円は超えるだろうという旨も伝えます。

他の移動手段の提案

基本的に個人の事情に介入することはありませんが、夜20時の時点で「東京駅から滋賀県の草津駅に行ってくれ」などというのは普通じゃありません。

ハッキリ言って妙なコトに巻き込まれるのも面倒です。余計なお世話かもしれませんが、他の移動手段を伝えてあげるのもアリだと思います。

例えば日曜日とはいえまだ20時であれば新幹線で向かうことも可能

ある程度の現金を予め預かる

慎重に扱う必要はありますが、「それでも向かってほしい」というのであれば予め現金を預かることも検討した方がよいでしょう。私なら15万円~20万円程度を先に預かります。これで乗り逃げ防止になります。

クレジットカードを掲示されたら…断るか15万円~20万円を手動決済で先に行います。到着時に不足分を再度決済し、万が一超過が発生した場合は現金で返金することを了承してもらいます。

保護者・家族に連絡

最終的にはコレです。

運行管理者の指示を仰ぐ

法人タクシーの場合は一度営業所へ連絡を行うべきでしょう。

ざっとまとめてみましたが、当然一番は乗務員の利益を守るということで記載しましたが、18歳の少女にとっては不本意かどうかはわかりませんが、これらの対応が出来ていれば少なくとも無賃乗車で逮捕されることはなかったと思います。



まとめ

超長距離運送は現実的にあり得ない案件ではありません。危篤など複雑な事情、やむを得ない事情で超長距離移動が必要となる場面に遭遇することもあります。

その際は適切な移動が行えるよう準備することも大切だと言えるのではないでしょうか。

ちなみに私も超長距離運送を引き受けたことがありますが、やはり東京駅からでした。ディズニーランドで夢中になって遊んでいたら帰れなくなったという女の子二人を、静岡県の焼津のちょい先まで送ってあげたことがありました。